みどりのそよ風の心地よい日の午睡を呑んで、歩く夕刻の時。七色畑も赤めいて、ひとつの鳥が小さく飛んだ影を残す。私の夢見るあいだ、私の大きな鯉、私の小さき恋人、私のひとりの弟は、陽射しの明るい公園で遊んだのだろうか、薄汚れた靴を玄関に放って私と代わるように居間で眠っていた。摘んだ花を手にして可愛いように眠っていた。私が帰ってきたら、一緒にご飯を食べようね。外に出て、しずかな道を休まる風と共に歩くひととき、心やさしく夕暮れの空が私を染める。暗い夜に居て自分を見失わない為、明日をいっそう確かなものとする為に。
心の火が灯るとき、私はそれを頼もしく思った。その火は私とひとしく小さいが、それでも確かに在るのだ、と。私の言葉に応えるように火は揺れた。春を彩る風を感じてふと、夜になったと思い出す。
彼の部屋の明かりを確かめて、私は玄関を叩いた。扉の奥で階段が鳴る音が聞こえると思ったら、音は既に私のすぐそばにまで近づいた。気付くと私の胸が高鳴っていた。開いた玄関から顔を覗かせた彼はそのままに、私は何も言えずに、目と目だけが見つめあった。私の顔は赤くなった。彼の視線が少し変わったのを辿っていくと、玄関から月明かりが見えていた。
五月の広々とした雲間から、仄明るく照る月を、映す心の底の花、かおる優しき人の影を、たどる家路のひとり道、遠くわずかにひかる家が見える。夕飯だ。弟よ、心の鐘を鳴らしておくれ!