それを知っていてさながら無口で
老年の森は人々を縫うように通す。
控えめな陽はみてみぬふりをわざとらしく、
朧ろげな月はみてよこの姿のありようで、
彷徨う風に連れられて、人々はここへ来る。
夜更けの暇、密かな接吻を交わして消える陰、
樹の下で夢みる心に冷たい朝が問う、
お前は誰だ?
鋭さを失くした足跡は忽然と消え失せて、
嬉々として樹々は身を伸ばす。
形見の歯形も永遠に届かず、
なびく髪も明日を知らない。
覚束ない瞳に一筋の光り。
真新しく、新鮮な。
それを知っているというのなら、
それは僕ではない。
樹の下に添えられた花が、
時の風になでられるとき、
普遍の瞬きに、
朝陽は微笑む。
高鳴る鳥の鳴き声に続くものが、
一定の拍子のうちで小さくなり、
次第に広がる音の海が、
古びた樹枝の揺らぎを残すとき、
まるでそこへと安らぐように、
落ちている木漏れ日のなかに、
夢の寝床を閲するように、
くすんだ緑の肌が触れ合って、
なんて大きな欠伸をするのだろう。
蔦紅をまとう女神の胴体に、
朝露が落ちて、そのとき、
千古の瞳が燃え失せた。