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さ迷う

冷たい風は雨を呼ぶ。夜街の明かりは人々を照らしているが、ただのそれだけでさも無関心のようである。其処では何もが同じであるかと思われた。間に合う笑みを交わす人々、恋人同士はできる限り寄り合おうと努める、そうした連中の間に先きを急ぐ面持ちで抜ける人がいる。如何に興味の視線を遣ったところで、私自身、その先きの対象を見失ってしまう気がした。この都会が多くの加減を知り得ないものであることに、時折私はうんざりする。我こそは、と思う人間だけじゃない、此処には、ただのそうした言葉を聞くだけで宝探しの如く喜ぶ人間がいる。私は彼らが見当違いの言葉を交わし合う卓上の空気に飽き果てる。かといって窓から街の光景を見遣ったところで、彼らのその洒落た服飾とは全く違った無気力な歩みだけが気になってくるという調子なのだ。頼もしい装飾がまるで人間の動物的な欲を剥き出しにしている、と開放的な社交での忍びやかに人影の狂変する様が、私の信疑をじりじりと擽る。しかし人はいつもなに食わぬ態度だ。それで私も素知らぬ顔をして、私の思い違いを考慮する羽目になる。幾時の思考を経て、すっかり私も街の人間だと思う。自身の欲望は自ずと隠れるもので、そうでなければ決して私は洒落っ気のある店に、自分と同じくらいの若者が寄り道をすることなく真面目に来たがるようなお店に入ることもできやしないだろう。予約をするには俗に充ちて、それだから心持ち、しれっと恋人との予定に組み込んで得意気にやって来るのだ。こう迄思い至ると、街の連中が如何に粗雑にも自惚れてあろうが、私もまた同様の程度であろうが、もはやそれらは無縁である。雨がしとしと雪のように冷たく肌に当たると、私は嫌気から帰宅の足を早めた。毒のように身体へ染み込む光の、夜ならぬ街なかを人間の精神が敢えて眩惑の羽もて飛びまわる。