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polyphony

秋の明月のよぶ風に夜の歩道は肌寒く、玄関の前に居た猫の姿もなくなって、明るい夜空に平たい雲の流れるその下で、私はこう考えた。

記憶が山々と聳え、九月の大雨が荒々しくその麓をさらっていくと、日中の思い出などもはや消えてなくなった。いまや夜だけの記憶のまま、夜だけに映える山形のまま、私は寒がりで寂しい心へさようならだ。あのくらいの陽光を時に逆らわないで浴びることはできない。そう、ながい、ながい夜の始まりだ。嘗ての人間ならば此処が終着であったやも知れないが、私は未だ始まりを迎えたばかりで、畏れながらしかしこれは、ポリフォニーの続きなのだ。