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映画館の待合室は薄暗い。テーブルへ明かりが当てられ、
そこには映画のパンフレットがいくらか並べられてある。
バイトと開演を待つ客の幾人が静かに煙のように散在して、
待合の色調に併せられた濃赤と深緑のソファが沈んでいる。
テーブル、そこに置かれたパンフレットを眺め見て、
気になるものをふと手にとったが特に読む気もなく、
形だけとでもいうように表裏を繰り返し見るだけで、
そのあいだ人が流れるようにテーブルのそばに来て、
新規のものよりも既知のものを探すように目を遣り、
小さな映画館の玄関の呼び鈴が鳴る度に顔をあげる。
人々は淡い明かりに包まれて、まるで時の静止を帯びている。
彼らの内なる鼓動の代わりに、時計の針の音が聞こえてくる。
硝子扉を通して見る外の風景がある。シアター1の閉じた重厚な扉がある。
この現在の拡張された待合室はどんよりと、鈍く、去来の風を待っている。
結局僕はテーブル近くに居憑いて、だけど壁に貼られたものに気づいて、
顔を近づけて、目を凝らして、いま尚観れずに諦めていた名画の再上映、
でもそれだって、いまはぼんやりしていて、 たぶんそれどころじゃない。
僕の中に出来上がった作品と僕との関係は未だ至り得ないほど奥にある。
再上映の告知パンフレットを観ながらそれについて考えようとするとき、
ほんの小さく広がる光景から、沈んで深緑に染まって隠れていたものに、
ゆっくりと明かりが当てられて、空気の入れ替わってゆくのを感じとる。