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Pathway

建築物は消え去って、残ってあるのは道筋だけ。それは目に見えるところで二手に岐かれ、更に深く枝を為し、その終極は地平線に座す。地平線、目に見えて何がなく、末端の鋭鈍は知り得ない。一成る道も、二成る道も変わらなく道。延びる手腕に生える草葉は栄枯の命を宿らせる。同じような道は揺るがなく歩を働かせ、奇妙な途上、ぼくは睡夢へ身を寄せた。在るが侭の心地良さ、寂しさ、零れる陽光に蝶は舞う、人生は舞台なのか。他人が唇に語り寄り、ぼくは囁いた。木漏れ日に踊る虫たちのそばで、静かな余睡に耽る鹿のように眠れる貴方に生りたかった。しかし、理想。幾夜を越えて万路を前に泣き叫んだ。夜を見届ける梟が去って、澱みなく朝を迎えたとき、家々が建ち並ぶ路を変わらず歩んでゆくのだ。そして、朝。二方より高鳴る靴の音は、煉瓦の匂いを特徴付けるように聞こえる。野放しの感覚は爽やかに、ぼくは何も考えない。頬の上の夜陰が彼方地平線の波にさらわれて、辺りは水面のように輝きを放つのだ。美しきは友であれ。通りすがり、声をかけ、話を愉しみ夜を伴するどんな者であれ、ぼくは憶えていられない。百年の時が過ぎ、観給え、ラルゴの風が卓上の林檎を落とす時、林檎もまたとゆっくり砕け散る様を。蠟燭の灯火はそのとき、何方に傾くだろう。眠れる貴方はそのままに、しかし君はもはや居ないだろう。老朽と再生を繰り返し居続ける建築に、我々の生を近づけるのは止し給え。彼が己の美しさに苦渋して、不条理に自壊を為さないために。ぼくは地平線へ向かって道を歩むのだ。地平線の存在に拘って、泣き喚くのはもう終わりにしよう。肌を滑るナイフ、立春の楽園、乱雄の瑕、愛が傾けた樹の花咲く時、信念が東風を大地へ泳がせる。その時、彼の地平線の向こうに何があるのかと構う必要はない。最も熱い血が、そよ吹く風に乗って空を覆うなら、その時ぼくは、この世を確かに抱くのだ。