彼方、悲情の涙の流れ落ちれば、此方、奥底湧き出るものアリ。
なんと卑しい力学!驚いた、これが眩い愛の泉。
口に含ませて緩やかに、死す。
アンダンテより目醒めて辺りを見渡せば、天井は光の粒に満ち足りて、丸く柔らかい空気が高く舞い上がっている。水の世界が、思ったよりも暖かく、心地よい。あのときの触感、あのとき触れた、薄白たる肌に似た温情に包まれながら、軽やかな消失を次第に確かめた。早い、早過ぎる。呼吸が刻むように明確に鋭くなってゆくとき、狂おしさ免れて、私は目を閉じるのか?
私、と彼女は呟いた。一律の音響の中で、感情の微粒子は移ろぎゆく。私もいずれ消えてなくなる、消えてなくなりたい、そう思うときもあったけれど、いま、悲しい。涙なのか、それとも世界そのものなのか、もはや判別できなかった。天に輝き広がる水模様。男の透き通って優しい瞳、彼が此方を覗き込もうとしている。
僕、と彼は思い出した。水面に渡る孤独感。浮遊、戸惑い。誰も気付かない、風でさえ、僕のそばでも相変わらずだ。僕はもう見捨てられたのだろうか。彼女は何処へ向かったのだろう。追憶は水のように攫み処がない。ただその煌めきにかつての微笑みを想うのだ。水へ浸した彼の手には温もりが、だけど、それを温もりだとは思えなかった。
静まりかえれ、夜!
瞑目にあって、聞こえぬ声アリ。