何もない。遠くから聞こえてくるサイレンの音。サイレンの、あの音が、霞むように消えていくうちに、一つの境界を見つけだそうとする。音の消えたという瞬間を、それが何故だか欲しくて、だけど、その境界から先きは何もない。暗がりの部屋に灯の光が弱くひろがっている。何もない。望んだものの、その先きには何もない。登頂の後のように、いつしか真っ暗闇の下降階段を、限りなく、限りなく降りてゆく。卵のように、涙のように、以前へ戻ることもできず、戻ろうとも思わずに、落ちるように降りてゆく。暗闇の中、カメラを自分自身に向けて撮る。何もない。