夕どきの野花のひとつに私を見た。しんみりとそれは時を揺らがせた。余りの天賦の才を曝け出した私は、過去の陰りを何一つ残さぬ、ひとりの若々しい亡霊であった。
野原一帯に群がる草花も、冬の衣を身にして生命を仄めかしているが、私は裸足のまま、白々とした肌を薄赤く燃やしてあった。仁王立ちに構えた若造の眼に、怒れる獅子の老練を重ねた瞳が見える。野原は途轍もなく大きく広がって、鈍い風は手で切れそうなほど膨らんで真奥の頼りなげな森へ寄り入った。夕暮れは宵へと変わり、己の無力に泣きながら萎んでしまったのだろう、大地に横たわる風の皮が脚元を微かに撫でるように触れ、まもなくそれは息を止めてしまった。私は左脚の踝を爪で時折掻いてみせた。うずうずと亡霊が蹲る。いつの日か、夜の一刻が私の一滴の血を落とそう、そのとき、雑多な街をなんとなしに好むような、そんな垢だらけの不毛な認識をもつ人々は、もはや夢など見られやしまい。目の前の現実が鮮やかに輝いてみせるので、どうしてもその光の奥を見たいと目を凝らすのだ。彼等は何を見るだろう、その時、彼等は何と言うだろう。私は嬉しくなって真似をした。
「やあ、お早う!」
私はその出来の悪さに腹が立った。そんな戯れに何度となく更けるうち、私は眠くなってしまった。徐々に身体が局所で制御され、私は人間お馴染みのあの姿勢になっていった。自信で満ちた湾曲の月が空に見える。綺麗な月の輝くのを見て、私は少し寒さを感じた。そのとき、獅子が暗闇へと歩み始めていたのに、私は気付かなかった。