ともし火
男は西東京に住んでいた。西東京から新宿へ向かい、総武線の最終電車に乗って或る女のもとへ向かった。女は船橋にひとりで住んでいた。彼女の心は優れていた。うさぎを食べる、と言えばすぐに泣きそうな顔になる優しい、物静かな女だった。彼女は来週からフランスに留学する。男はそのことを電車の中で考えた。それは嫌だなと彼は思った。しかし実際に彼女は来週からフランスのソルボンヌ大学へ留学するのだ。男は電車で船橋まで行くと立ち止まって、そのまま立ったり、座ったりした。彼には女のもとへ容易に行くことのできない心があった。たとえ行ったとしても、ふとしたときに虚しさが満ちるのを許してしまうだろう。男は結局その夜も次の夜も女のもとへ行くことができなかった。女は共に悲しんだ。時は過ぎ去ろうとしていた。男と女を互いに引き離しまいとして引きつけようとするともし火がただ夜を照らしていた。
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otonarikaminari