monochrome
花香はかげろい、山霧は鵺のように鳴く。時止まりたる濁水、疾うに朧月は過ぎ去った。冬めく夜の帰り道、うら若い乙女は私の手を握った。寂しそうに手を振って別れ合った、それからのすべてが気になりだして、思寝の涙を懐かしんだ。若き心の底根を摑む激情が、あの娘のかいなに潜んでいた。人児を育てる狼のような母のまなこの睨みが彼女で霞む。色褪せた秋風毎に葉の落ちれば、麗しきみめは水面さながら乱れなく、しとやかに呼吸する。煙草の煙で戯れ、串揚げ蓮根をかじり、日の短きを悟ったような笑顔を交わす。過ぎ去った面影が幾重にも連なり、陽を浴びた折、溶ろけるように落ちる期待、彼女と私のみぞ知る刹那は、それ以上の何事も伝えることなく、今は限りの貴さを遺して万朶の時をむすぶ。
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otonarikaminari