夏を出立ち秋は応える。
閑静な夜道に吹く風が、ラーメン屋の薄光りが、
並木の映やす紅黄色を、鏡の中の火照った彼が、
底に埋もれた侘しさを、片時に触わる温もりが、
左様ならの溝を深めて、黙視もて教えてくれる。
灯りを心に宿そう。
遣り場なき手を忘れて、
揺れる心に火のつくように、
じっとしていよう。
遠ざかる影を、見つめていよう。
変化の狭間で衝動に駆られて、すべてを捨て去って、
何処へ遠出したくなった秋を、夜空に垂れ下がって、
朧げな雲を羽織った満つ月が、時の空隙に覗きみて、
そのとき人は睦まじき日常の、計り知れぬ底に浮く。
淀んだ瞳に風を与えて、
冬が小鳥を眠らせるように、
そっとしておこう。
萌黄に馳せて、ひと眠りしよう。
Mornin'
軽減を究めた精神の
堅牢な留め具を捨て
走り抜ける空がある
甘い蜜の通う血脈の
制御に赴く本望もて
飛び抜ける道がある
癒ゆる匂いも捨て置きて
羽搏く小鳥に餌を遣って
朝陽を背にして夜を眺め
生まれ変わった人たちを
永年の煙草に与えながら
出づる余燼を謳歌したい
壮大な宇宙を想起して
嘔吐に大層叫び上げた
其処は便所でなければ
未だに眠らざる内臓の
名残に啼いた偏狭の道
堅牢な留め具を捨て
走り抜ける空がある
甘い蜜の通う血脈の
制御に赴く本望もて
飛び抜ける道がある
癒ゆる匂いも捨て置きて
羽搏く小鳥に餌を遣って
朝陽を背にして夜を眺め
生まれ変わった人たちを
永年の煙草に与えながら
出づる余燼を謳歌したい
壮大な宇宙を想起して
嘔吐に大層叫び上げた
其処は便所でなければ
未だに眠らざる内臓の
名残に啼いた偏狭の道
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otonarikaminari
Rollenspiel
紫紺の舞台に梅紫の零れ落ち、
残響に続く低音の群が忍び寄る。
鶯の飛び立つ鼓動に気をとられ、
草葉は風を与えられ、そのとき
心は空を見上げて雲に叫ぶ。
無数の形態、対をなして眼は光る、
それらをぼくは捉えていた。
近づけば遠ざかり、
避けんとすれば、強まる光り。
地に立つ像の哀しみに
深く沁み入るように
天蓋を徐に閉ざしていく。
歪みの糸を紐解いて、
一体何を見るのだろう。
終幕の先を垣間みて、
一体何が居るのだろう。
心に鏃の突き刺さるとき、
照明にその血衣を見せつけて、
彼方の露は海へと変わる。
言葉を貴方に投げかけて、
自由曲線に遊ぶ音の波は、
果たして不合理の塵となる。
貴方、と呼んではみたものの、
まるで自分を呼んだみたい。
言葉は消えて、貴方は返され、
そしてぼくはただ一人。
仰げば目眩の起こる空高く、
鶯色に変わる舞台に絶えず、
ぼくは引き出され、
無形の衆群をそこで見る。
待ってましたと言わんばかりの、
拍手がまるで矢束になって突き刺さる。
残響に続く低音の群が忍び寄る。
鶯の飛び立つ鼓動に気をとられ、
草葉は風を与えられ、そのとき
心は空を見上げて雲に叫ぶ。
無数の形態、対をなして眼は光る、
それらをぼくは捉えていた。
近づけば遠ざかり、
避けんとすれば、強まる光り。
地に立つ像の哀しみに
深く沁み入るように
天蓋を徐に閉ざしていく。
歪みの糸を紐解いて、
一体何を見るのだろう。
終幕の先を垣間みて、
一体何が居るのだろう。
心に鏃の突き刺さるとき、
照明にその血衣を見せつけて、
彼方の露は海へと変わる。
言葉を貴方に投げかけて、
自由曲線に遊ぶ音の波は、
果たして不合理の塵となる。
貴方、と呼んではみたものの、
まるで自分を呼んだみたい。
言葉は消えて、貴方は返され、
そしてぼくはただ一人。
仰げば目眩の起こる空高く、
鶯色に変わる舞台に絶えず、
ぼくは引き出され、
無形の衆群をそこで見る。
待ってましたと言わんばかりの、
拍手がまるで矢束になって突き刺さる。
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otonarikaminari
Suppression (after Art)
世界は反転するはずだった
好奇に膨らむ心の
快悦へ接触するぼくは
どれにもまして鈍感だった
世界は奇妙であるはずだった
調律された跫音の
ひとりでに響くぼくは
いつにもまして感覚を離れ
理性へ先にしがみついていた
瞑目のうちにあった彼女が
楽しそうに話している
碎けて散った断片の間を
砂のように流れる時間が
終わろうとしている
好奇に膨らむ心の
快悦へ接触するぼくは
どれにもまして鈍感だった
世界は奇妙であるはずだった
調律された跫音の
ひとりでに響くぼくは
いつにもまして感覚を離れ
理性へ先にしがみついていた
瞑目のうちにあった彼女が
楽しそうに話している
碎けて散った断片の間を
砂のように流れる時間が
終わろうとしている
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otonarikaminari
Impression
ぼくは涙を落とす
かれらがキスをするために
きみは手をとる
かれらが孤独を知るために
きみのゆびと相接し
ぼくは乾いた感触を確かめる
かれらがぼくから消え去るように
言葉の前に
星々の落ちる泉の広がって
沸き上がる泡沫が彼の空を
かつてぼくが知った暗闇を歪めている
偶然を帯びた触感を残して
かれらは何処かへ消えてしまった
かれらがキスをするために
きみは手をとる
かれらが孤独を知るために
きみのゆびと相接し
ぼくは乾いた感触を確かめる
かれらがぼくから消え去るように
言葉の前に
星々の落ちる泉の広がって
沸き上がる泡沫が彼の空を
かつてぼくが知った暗闇を歪めている
偶然を帯びた触感を残して
かれらは何処かへ消えてしまった
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otonarikaminari
Waldgeheimnis
それを知っていてさながら無口で
老年の森は人々を縫うように通す。
控えめな陽はみてみぬふりをわざとらしく、
朧ろげな月はみてよこの姿のありようで、
彷徨う風に連れられて、人々はここへ来る。
夜更けの暇、密かな接吻を交わして消える陰、
樹の下で夢みる心に冷たい朝が問う、
お前は誰だ?
鋭さを失くした足跡は忽然と消え失せて、
嬉々として樹々は身を伸ばす。
形見の歯形も永遠に届かず、
なびく髪も明日を知らない。
覚束ない瞳に一筋の光り。
真新しく、新鮮な。
それを知っているというのなら、
それは僕ではない。
樹の下に添えられた花が、
時の風になでられるとき、
普遍の瞬きに、
朝陽は微笑む。
高鳴る鳥の鳴き声に続くものが、
一定の拍子のうちで小さくなり、
次第に広がる音の海が、
古びた樹枝の揺らぎを残すとき、
まるでそこへと安らぐように、
落ちている木漏れ日のなかに、
夢の寝床を閲するように、
くすんだ緑の肌が触れ合って、
なんて大きな欠伸をするのだろう。
蔦紅をまとう女神の胴体に、
朝露が落ちて、そのとき、
千古の瞳が燃え失せた。
老年の森は人々を縫うように通す。
控えめな陽はみてみぬふりをわざとらしく、
朧ろげな月はみてよこの姿のありようで、
彷徨う風に連れられて、人々はここへ来る。
夜更けの暇、密かな接吻を交わして消える陰、
樹の下で夢みる心に冷たい朝が問う、
お前は誰だ?
鋭さを失くした足跡は忽然と消え失せて、
嬉々として樹々は身を伸ばす。
形見の歯形も永遠に届かず、
なびく髪も明日を知らない。
覚束ない瞳に一筋の光り。
真新しく、新鮮な。
それを知っているというのなら、
それは僕ではない。
樹の下に添えられた花が、
時の風になでられるとき、
普遍の瞬きに、
朝陽は微笑む。
高鳴る鳥の鳴き声に続くものが、
一定の拍子のうちで小さくなり、
次第に広がる音の海が、
古びた樹枝の揺らぎを残すとき、
まるでそこへと安らぐように、
落ちている木漏れ日のなかに、
夢の寝床を閲するように、
くすんだ緑の肌が触れ合って、
なんて大きな欠伸をするのだろう。
蔦紅をまとう女神の胴体に、
朝露が落ちて、そのとき、
千古の瞳が燃え失せた。
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otonarikaminari
telephobia
僕は繋がっている。
電話の向こうにいる君と、
お互い引っ張られて来たみたいに繋がってはいるけれど、
どういう気持ちで、何を話しているのか、
分からない。
分からなくて、泣き出すことも、
怒ってしまうこともないけれど、
喜んで、笑って、
それで満ち足りることもない。
電話という原理のもと、
僕らはまるで同じ人物。
そのとき交わされた会話は、
未だ記号にすらならないで、
たぶんそのへんに広がって、
ぼんやり眺める光景の、
気にもされない一部となる。
背中に壁のあたる感覚も、
指の爪がのびているのも、
窓から忍ぶ秋の吐息に触れて、
小鳥の飛んでいくみたいに去っていく。
沸き起こる風に紅葉の葉が舞う。
隣家の響音が二人の耳元から染み込んで、
乾いた口元にまでやってはくるが、
深淵に座す沈黙の糸は伸びたままでいる。
受話器を置いて、目の前の扉を開けて、
君に触れたい。
受話器を支点に動く身体は、
やりきれない自由に苦しんでいる。
それは鎖からの解放なのでなく、
双頭の苦しみに似ている。
君に触れたい、僕に触れてほしい。
空飛ぶ鷹のように、抵抗を抱くように、
繋がっていたい。
電話の向こうにいる君と、
お互い引っ張られて来たみたいに繋がってはいるけれど、
どういう気持ちで、何を話しているのか、
分からない。
分からなくて、泣き出すことも、
怒ってしまうこともないけれど、
喜んで、笑って、
それで満ち足りることもない。
電話という原理のもと、
僕らはまるで同じ人物。
そのとき交わされた会話は、
未だ記号にすらならないで、
たぶんそのへんに広がって、
ぼんやり眺める光景の、
気にもされない一部となる。
背中に壁のあたる感覚も、
指の爪がのびているのも、
窓から忍ぶ秋の吐息に触れて、
小鳥の飛んでいくみたいに去っていく。
沸き起こる風に紅葉の葉が舞う。
隣家の響音が二人の耳元から染み込んで、
乾いた口元にまでやってはくるが、
深淵に座す沈黙の糸は伸びたままでいる。
受話器を置いて、目の前の扉を開けて、
君に触れたい。
受話器を支点に動く身体は、
やりきれない自由に苦しんでいる。
それは鎖からの解放なのでなく、
双頭の苦しみに似ている。
君に触れたい、僕に触れてほしい。
空飛ぶ鷹のように、抵抗を抱くように、
繋がっていたい。
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otonarikaminari
not for taste
パスタシュッタを上手に食べたい、
そうして通い始めた喫茶店。
思い起こせばボロネーゼばかり。
一息をフレーバーミルクにゆだね、
流れる音楽は心地よい。
パスタの量、巻かれ様、
フォークの角度を精査する、
そのときこその愉快さを、なんと呼んだらいいだろう。
パスタを巻いた。
美味みが影のようについてきた。
そうして通い始めた喫茶店。
思い起こせばボロネーゼばかり。
一息をフレーバーミルクにゆだね、
流れる音楽は心地よい。
パスタの量、巻かれ様、
フォークの角度を精査する、
そのときこその愉快さを、なんと呼んだらいいだろう。
パスタを巻いた。
美味みが影のようについてきた。
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otonarikaminari
_月
雲が遠くどこまでも広がって、その様は、
あらゆる濁りを溜め込んだような、
どんよりとして暗く、仰ぐ人を不安にさせ、
来る空の翳りに人々は、
身体を吊り上げられるような心地から、
片手の傘に一先ずの安心を掴む。
夕焼けもなく、雨もなく、
夜へ深みがただますなかで、
鼠の染みの輪郭が、ますます一様にぼかされるとき、
人々は瞳を小さくして、果てしない未知の色彩よりも先に、
一抹の明かりに自ずから呑まれてゆく。
時計の針の一刻は丁寧に、必ず急ぐことをせず、
木鳩は人間の行いを、誰に対するのでもなく告げている。
夜のネオンが鳴って、ポピュラーソングの音を踏む。
誰も通らなくなった小径から、ひっそり聞こえるクラシック。
人々はいま、何を考えているのだろう。
ポツンポツンと雨の代わりに夜の疑念が俄かに起こり、
傍を過ぎる人々の背中を見て、だけど何も知ることはなく、
知らされることもなく、僕は片手の傘を見て、
ポツンとひとり、信号の変わるのを待つ。
人々が僕と同じように考えながら、
僕と異なったものを見ている、
それはまったく不思議なんかじゃない。
人々が僕と同じものを見ながら、
僕と違うふうに考える、
それはとても不思議なことで、
耐えられない不安がそこにある。
冷えた玄関の匂いが子の刻を知らせ、
一歩一刻の緩やかな流れは時を変えず、
闇夜に溶け込んだ想念は広大な天井にこもって、
月の薄光は、誰の目も醒ますことなくゆらめいている。
あらゆる濁りを溜め込んだような、
どんよりとして暗く、仰ぐ人を不安にさせ、
来る空の翳りに人々は、
身体を吊り上げられるような心地から、
片手の傘に一先ずの安心を掴む。
夕焼けもなく、雨もなく、
夜へ深みがただますなかで、
鼠の染みの輪郭が、ますます一様にぼかされるとき、
人々は瞳を小さくして、果てしない未知の色彩よりも先に、
一抹の明かりに自ずから呑まれてゆく。
時計の針の一刻は丁寧に、必ず急ぐことをせず、
木鳩は人間の行いを、誰に対するのでもなく告げている。
夜のネオンが鳴って、ポピュラーソングの音を踏む。
誰も通らなくなった小径から、ひっそり聞こえるクラシック。
人々はいま、何を考えているのだろう。
ポツンポツンと雨の代わりに夜の疑念が俄かに起こり、
傍を過ぎる人々の背中を見て、だけど何も知ることはなく、
知らされることもなく、僕は片手の傘を見て、
ポツンとひとり、信号の変わるのを待つ。
人々が僕と同じように考えながら、
僕と異なったものを見ている、
それはまったく不思議なんかじゃない。
人々が僕と同じものを見ながら、
僕と違うふうに考える、
それはとても不思議なことで、
耐えられない不安がそこにある。
冷えた玄関の匂いが子の刻を知らせ、
一歩一刻の緩やかな流れは時を変えず、
闇夜に溶け込んだ想念は広大な天井にこもって、
月の薄光は、誰の目も醒ますことなくゆらめいている。
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otonarikaminari
11_
師走を先取り突っ走る。
視界良好、荒涼とした景色。
終着を知り得ても、
情念は奔流となって止むを知らず、
時雨の後の煌めく瞳、
四方に包む風の心地よく、
焦慮に踏み込み跳躍する、
詩情を越えたその先は、
霜降月の冬めく心。
視界良好、荒涼とした景色。
終着を知り得ても、
情念は奔流となって止むを知らず、
時雨の後の煌めく瞳、
四方に包む風の心地よく、
焦慮に踏み込み跳躍する、
詩情を越えたその先は、
霜降月の冬めく心。
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otonarikaminari
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