無題
音を聴き続けると飽きてくる。音がずっと聴こえてきても大して飽きることもない。この逕庭を誰が覘き視るだろう。何を言ってるのかわからない、どこぞのミュージックで格好付けたって、それと対峙するものを示してみせたって、なんだっていいじゃないか、と思う。どんなもの好きも無用に認めているわけじゃない、そういう認知に、価値を見出さないだけ。ぼくがいま聴く音はずっと重いけれど、それで安易に想定されてしまう悲哀なんてものはこれっぽちもない。誰が叫ぼうといいさ、叫ばないということはない。誰が歌ってみせてもいいさ、ソイツは遠く彼岸に現れると聞くけれど。音楽を聴かせてくれるなら、貯め込まないで、もっとその音楽というやつを教えてくれよ。
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otonarikaminari
nothing
何もない。遠くから聞こえてくるサイレンの音。サイレンの、あの音が、霞むように消えていくうちに、一つの境界を見つけだそうとする。音の消えたという瞬間を、それが何故だか欲しくて、だけど、その境界から先きは何もない。暗がりの部屋に灯の光が弱くひろがっている。何もない。望んだものの、その先きには何もない。登頂の後のように、いつしか真っ暗闇の下降階段を、限りなく、限りなく降りてゆく。卵のように、涙のように、以前へ戻ることもできず、戻ろうとも思わずに、落ちるように降りてゆく。暗闇の中、カメラを自分自身に向けて撮る。何もない。
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otonarikaminari
五月の奴
夏が睡夢の中でその鼻息を強め、嫌々に生温い風が、どんよりと我々へ舞い込んでくるのも直な頃合い。雲は寝惚けの調子がこれまた唐突に、我々を日ごとに呆れさせよう。じわりと精力を吸い取って、うんざりさせる季節を越えて、それでも宴の街は盛況する。諸々が手を取り合って、まるで発電するかのように。だけどぼくのような人間には、どうもそれが身に合わないで、発電どころか反抗体のようなものだ。彷徨う、それだって、なかなか苦労なこと。一体、風になれるならばと願うものの、この脚重し、息吐き横たわって、蝉の歌の中で余睡に耽るのだ。だけどそれもまた、線と線とが丁度上手く重なり合うのでなければ、とても稀なことだ。重たい瞼、宵に意味のない溜め息。未だ月の半ばとはいえ、気温の微々たる変化がその結末を想い起こさせる。それと並行するように、夏の企てへと五月は誘う。否とは言えない誘い方を五月の奴は知っている、宵のテノールサックスに通じているのだから、参ってしまうよ。
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otonarikaminari
沈黙
彼方、悲情の涙の流れ落ちれば、此方、奥底湧き出るものアリ。
なんと卑しい力学!驚いた、これが眩い愛の泉。
口に含ませて緩やかに、死す。
アンダンテより目醒めて辺りを見渡せば、天井は光の粒に満ち足りて、丸く柔らかい空気が高く舞い上がっている。水の世界が、思ったよりも暖かく、心地よい。あのときの触感、あのとき触れた、薄白たる肌に似た温情に包まれながら、軽やかな消失を次第に確かめた。早い、早過ぎる。呼吸が刻むように明確に鋭くなってゆくとき、狂おしさ免れて、私は目を閉じるのか?
私、と彼女は呟いた。一律の音響の中で、感情の微粒子は移ろぎゆく。私もいずれ消えてなくなる、消えてなくなりたい、そう思うときもあったけれど、いま、悲しい。涙なのか、それとも世界そのものなのか、もはや判別できなかった。天に輝き広がる水模様。男の透き通って優しい瞳、彼が此方を覗き込もうとしている。
僕、と彼は思い出した。水面に渡る孤独感。浮遊、戸惑い。誰も気付かない、風でさえ、僕のそばでも相変わらずだ。僕はもう見捨てられたのだろうか。彼女は何処へ向かったのだろう。追憶は水のように攫み処がない。ただその煌めきにかつての微笑みを想うのだ。水へ浸した彼の手には温もりが、だけど、それを温もりだとは思えなかった。
静まりかえれ、夜!
瞑目にあって、聞こえぬ声アリ。
なんと卑しい力学!驚いた、これが眩い愛の泉。
口に含ませて緩やかに、死す。
アンダンテより目醒めて辺りを見渡せば、天井は光の粒に満ち足りて、丸く柔らかい空気が高く舞い上がっている。水の世界が、思ったよりも暖かく、心地よい。あのときの触感、あのとき触れた、薄白たる肌に似た温情に包まれながら、軽やかな消失を次第に確かめた。早い、早過ぎる。呼吸が刻むように明確に鋭くなってゆくとき、狂おしさ免れて、私は目を閉じるのか?
私、と彼女は呟いた。一律の音響の中で、感情の微粒子は移ろぎゆく。私もいずれ消えてなくなる、消えてなくなりたい、そう思うときもあったけれど、いま、悲しい。涙なのか、それとも世界そのものなのか、もはや判別できなかった。天に輝き広がる水模様。男の透き通って優しい瞳、彼が此方を覗き込もうとしている。
僕、と彼は思い出した。水面に渡る孤独感。浮遊、戸惑い。誰も気付かない、風でさえ、僕のそばでも相変わらずだ。僕はもう見捨てられたのだろうか。彼女は何処へ向かったのだろう。追憶は水のように攫み処がない。ただその煌めきにかつての微笑みを想うのだ。水へ浸した彼の手には温もりが、だけど、それを温もりだとは思えなかった。
静まりかえれ、夜!
瞑目にあって、聞こえぬ声アリ。
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otonarikaminari
私と太陽
太陽が燃え尽くす、私を少しずつ、未だ不十分に、そう、一体、太陽自身が惑いを抱えているうち、全てをば、燃やし果たさんとして、不十分に力尽きてしまう運命。彼にもまた運命こそあれ、超越の先きの無明を知ることなく動き続ける彼の定めもまた、退屈そのもの。我々がそに自由を与えあげさえすれば、再び新しい秩序を生むばかりの力を備えているだけに。
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otonarikaminari
蛙の言伝
公の空に一つ雲が広がった。狂気がひっそり笑い始めた。五月。生への倦怠が緩やかに姿を示し、アタマのなかの冷たい辞書の、ほんの微々たる欠陥をさがしだそうと、嗚呼、これが破壊行為の揺るぎなき魅力なのだ。物陰静かに獲物を伺う魔物の所作、来る、風の差し挟み、音成る草木の色失って、ジワジワと、とある瞬間へ結ばれる時が、来るのだ。
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otonarikaminari
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